羽生永世七冠・藤井六段・井山七冠の活躍に沸く将棋・囲碁と学力との深い関係

みなさん、こんにちは。DIC学園熊本校の小山英光です。

昨年からの藤井ブーム(プロデビュー後29連勝)を受けて、今年2月の羽生・井山両氏への国民栄誉賞受賞と大いに盛り上がっている将棋・囲碁界。今回のブログでは、その盛り上がりの中心にいる羽生永世七冠・井山七冠および藤井聡太六段の師匠である杉本昌隆七段の著書から、彼らの考え方や気構えをお伝えしたいと思います。今将棋界・囲碁界のトップにいる二人と、これからの将棋界を背負って立つ人材を育成した師匠からの言葉には、必ず参考になることがあるはずです。

☆ 三人の学ぶ姿勢について

○羽生「決断力」p155~156より

「私は、今の時代は、いろいろなことが便利になり、近道が非常に増えた時代だと思っている。何かをやろうと思ったときに、さまざまな情報があり、安易な道、やさしい道が目の前に数多くある。楽に進める環境も充実している。昔は、遠い、一本の道しかなかった。そのため、選択の余地なくその道を歩んだけれど、今は近道が他にたくさんできている。わざわざ一番遠い道を選んで行くのは損だという思いにかられる。その横では近道で通り過ぎてゆく人がたくさんいるのだから。自分自身で、「何をやっているのだ」と思うこともあるだろう。逆に、昔よりも選択が難しい時代なのかもしれない。しかし、遠回りをすると目標に到達するのに時間はかかるだろうが、歩みの過程で思わぬ発見や出会いがあったりする。将棋でも、直接対局に関係ないように思えることが、あとになってプラスになったということはいろいろある。対局で、未知の場面に遭遇したときには、直接的な知識や経験以外のものが役に立ったりするのだ。

若いころ、一人で考え、学んだ知識は、今の将棋では古くなり、何の役にも立たない。だが、自分の力で吸収した考える力とか未知の局面に出会ったときの対処の方法とか、さまざまなことを学べたと思っている。私は、自ら努力せずに効率よくやろうとすると、身につくことが少ない気がしている。近道思考で、簡単に手に入れたものは、もしかしたらメッキかもしれない。メッキはすぐに剝げてしまうだろう。」

○杉本「学び方」p6162より

「将棋の世界で詰将棋を解くことは基礎鍛練に当たり、スポーツにたとえれば、ウエイトトレーニングのようなものです。間違いなく役に立つのですが、効果が目に見えて現れることはなかなかなく、持続させるには大変な意志の力を要します。つらく苦しい地味な学び方です。

詰将棋を学んだからといって、いつも勝てない相手に勝てるわけではありません。それならば、戦術書で覚えた新しい戦法を試したほうが、よほど有効です。それは今日覚えれば、明日にも使える勉強法です。

ところが、藤井は詰将棋を解くことで無意識に学んでいました。好きだから毎日、時間の許すかぎり続けていたい、熱中の度合い、情熱の度合いがケタ違いでした。結果的に、将棋における基礎トレーニングをものすごい集中度で、しかも毎日欠かさず続けていたことになります」

○井山「勝ちきる頭脳」p5961より

「僕(井山)は小学校2年生時に全国少年少女大会で優勝(山下敬吾現九段と並び史上最年少記録)し、翌年も連覇。9歳の秋にプロ棋士を目指して院生(プロ養成機関である日本棋院に所属することー小山注)となりました。

しかしいくら小学生名人とはいっても、院生の先輩は皆さん年長で、僕より強い方ばかりです。すぐにBクラスからAクラスには昇格できたものの、そのAクラスでは苦戦が続き、結果を出せない日々が続きました。

~中略~

それまで、家では一日に1時間ほどしか碁の勉強をしていなかったのが、夜の7時くらいから2~3時間ほど碁盤の前に座るようになり、詰碁にも積極的に取り組むようになりました。

この2~3時間という勉強時間についてですが、他の院生はおそらく毎日、この倍くらいは勉強していたはずです。ですから真面目に取り組み始めたとはいっても、少ないほうだと言ってよいでしょう。

ただ、それでも僕にとっては驚異的な前進であったことは間違いありません。そして他の院生の勉強方法までは知らないので一概には比較できませんが、僕は僕なりに「やるからには短時間で集中して勉強する」という意識がありました。

そうした意識改革が実ったのか、翌年から徐々に院生手合の成績も上向いてきて、小学校6年生時に行われた入段試験で、プロ入りを決めることができました。

やはり詰碁を徹底的にやって、読みの力を鍛えられたことが大きかったと思います。単純なミスによって碁を落とすことが、目に見えて減りました。また自分の読みに自信が持てるようになったので、決断や構想にも確実な裏付けを持てるようになったのです」

いかがでしょうか。井山・藤井(杉本)両氏においては基礎トレーニングにあたる詰碁や詰将棋練習への真摯な取り組み。羽生さんにおいては、近道思考の否定など、「効率の良さ」という言葉からは距離を置いて鍛練を行っている三名の姿が浮き彫りになっていますね。

この移り変わりの激しい時代。世の中の流れも、流行りの勉強法(?)も目まぐるしく変化していく中で、それに影響を受けて、私たちも「効率の良さ」を至上命題として追いかける傾向にあるのではないでしょうか。特に、羽生さんの「自分の力で吸収した考える力とか未知の局面に出会ったときの対処の方法」とは、これからの大学入試において要求される「思考力・表現力・判断力」に通じるものがあります。これらの力や、これからの世の中で生きていける力を養うことは「効率よく」一朝一夕にはいかない、そのことが三氏の言葉から読み取れるように思います。

☆ 学びのプロセス

では、子ども達に勉強に取り組ませ、それを継続させるにはどうしたらよいのか。また、彼らが不調に陥ったときに、我々はどのように接し励ますべきなのか。そのあたりのヒントを、羽生さんの著書から探ってみましょう。

○羽生「決断力」p171~172より

◇モチベーションの継続

「どの世界においても若い人たちが嫌になる気持ちは理解できる。周りの全員が同じことをやろうとしたら、努力が報われる確率は低くなってしまう。今の時代の大変なところだ。何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。

~中略~

一つのことに打ち込んで続けるには、好きだということが根幹だが、そういう努力をしている人の側にいると、自然にいい影響が受けられるだろう。さらに、ペースを落としてでも続けることだ。無理やり詰め込んだり、「絶対にやらなきゃ」というのではなく、一回、一回の集中力や速度、費やす時間を落としても、毎日、少しずつ続けることが大切だ。無理をして途中でやめてしまうくらいなら、「牛歩の歩み」にギアチェンジしたほうがいいと思っている。

『天才とは1パーセントの閃きと99パーセントの努力である』

というエジソンの言葉は、どの世界にも共通する真理をついた言葉である」

○羽生「迷いながら、強くなる」p125~126より

◇「半信半疑」くらいがよい

「『どうしたら自信が持てますか?』と聞かれることがあります。たしかに自信を持っていれば不安な状態にはならないですし、迷うことも少ないと思います。

しかし、難しい問題や困難な課題に直面した時に自信が持てないのは、きわめて自然なことだと思えます。

裏を返せば、いつも自信を持っている人がいるとすれば、それはその人が不安を覚えることがないくらい簡単なことしかやっていないのでしょう。

半信半疑という言葉がありますが、向上をしていく時に必要な状態というのは、こういう『自信半分・疑い半分』という心持ちで十分だと思っています。

『これでいいと思いながらも、同時に『もしかしたら修正は必要かもしれない』と考えながら進んでいくことが、手応えはないものの堅実で逸れることなく前進ができる方法なのです。

そして、それを繰り返して一つのテーマを克服した時、深い理解と確信が生まれるのでしょう」

○羽生「迷いながら、強くなる」p150~151より

◇「反省 立ち止まったら、一歩踏み出す」

「将棋の世界には、“反省はするが、後悔はしない”という言葉があります。

何かおかしな一手を指してしまった時には、どうしてそう指したか省みるわけですが、いつまでも後悔をしていたのでは前に進むことはできません。

前進を続けていくために反省をしても後悔はしないのです。そのミスや失敗は、次のステップに進むための必要なプロセスや経験であったと考えるようにしています。

ただ経験をしても、そこから必要な教訓を引き出すことができなければ次に進むことはできません。そのために「後悔はしない」という態度が必要ではないでしょうか。後悔先に立たずと言いますが、後悔をしている時には前進をしていないものです。

反省をする時には、しっかり立ち止まって振り返る必要はあります。

しかし、いつまでも立ち止まっていたのでは進歩も発展もありません。あまりに失敗が強烈だと立ち止まるだけではなく、立ちすくんでしまう時もあります。

慌てる必要はまったくなく、必要な時間、立ち止まって反省をすればいいのですし、その時間も一律ではありません。しかし、立ち止まっている時間が長くなってしまうと、立ち止まっていることそのものを忘れてしまう時もあります。そんなことを思い出させてくれるのが反省だとも言えます。

また、立ち止まっていた時間は決して無駄ではなく、ある意味、休息し、充電をしていたとも言えます。その時間が長ければ前へ進む力も大きくなっているはずです」

以上でご紹介を終わります。後半は、ご自身で執筆されている著書の多さから羽生氏の著書からの引用が多くなりましたが、ご参考になりましたでしょうか。羽生さんは30年以上にわたり、厳しい勝負の世界の第一線で活躍されている方であるだけに、言葉の重みもまた格別なものがありますね。特に、「半信半疑」の心構えを説く件は、私個人目からうろこが落ちる思いが致しました。何か新しいことや困難なことに立ち向かう際に、「半信半疑」の状態になることの方が自然であるわけですから、それを殊更に否定し、子どもたちが不安に感じること自体を過剰に排除する必要はないわけです。このことは、今後の私の指導にも活かしていくとともに、子どもたちにも大切な心構えとして伝えていきたいと思います。

◎参考文献 いずれもご購入が容易な本でございます。ぜひご一読を。

羽生善治「決断力」(角川新書・2005年)

羽生善治「迷いながら、強くなる」(知的生きかた文庫・2016年)

杉本昌隆「弟子・藤井聡太の学び方」(PHP研究所・2018年)

井山裕太「勝ちきる頭脳」(幻冬舎・2017年)

ご相談は プロ家庭教師のDIC学園

Tel 0120-598-123 または www.d-gakuen.co.jpまで

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